残骸の前には崩壊があった。断末魔に侵略されつくした聴覚器官の麻痺が日々を重ねて、我々にはその宣告を聞き取ることができなかったのだ。不覚だった。わざわいだった。皮膚の下でリノリウムの床の上は冷たく、男の腕は相応に温かいので、錯覚しそうになる。滑稽な嘲笑で空虚な真実を、屈託もなく、せせこましく、敗者に指し示してくれた、あなたは優しいのだと。「赤い靴を履いているんですね」切り落とされるのは怖いとあなたは言った。驚くほど赤い靴がまるで血のようで陳腐。赤い靴をはいてしまって足を切り取る勇気も無くただただ踏み続けるリガドゥーンを甘い蜜の夢を見続けて腰を振り踊り続けのけぞり続けてステップを踏み続ける足の軽やかなステップに私だけを観客にしていた青年の奇妙な美しさには、だから喝采も無い。鉄の臍の緒で繋がった日々の中で、無自覚にあなたは私の手を取ろうとしていた。愚かもののムーヴメントがあなたにひれ伏しているのだと気付きもしてなかった無辜の眼で私を誘っていた「竜崎」と呼ぶ声の生暖かさ。あれすら偽りだったというのなら、道化は完成している。可哀想に。今、私の瞼は閉じられていくので、観客の居ない独り舞台で、白痴を曝しながら舞踏するあなたを嘆いてあげることはもうできない。さよならだけが口をつく。
「リガドゥーン」