床の上に投げ出された爪先から体温は奪われてゆく。11月21日、夜の冬。夜神はこちらに背を向けてパソコンと向かい合っている。わずかに猫背が身に付いたように思った。微かな前傾姿勢の、その視線の先にあるモニター、次々と現れる文字列、伴って鳴るキーボード。月くん。呼びかけても返らないいらえに虚しいとは思わない。無念だとも思えない。ぼんやりと霞んだような思考しか浮かばずに、かつてなく脱力している。こういうものだったんですね。亡霊とは、こういうものなんですよ「夜神月」私はお前が知らないことをまた一つ知った。ただ、それを伝える術をお前に奪われた。無力だ。
爪先が冷たい。温かさが肉体のどこにも見当たらない。夜気に奪われたと思うのは錯覚だ。もう持ち合わせていないものなのだから。部屋の明かりは私の影を映さない。名前、体温、情熱を持ち去られ、与えられたものは命日。私は死んでいる。
「亡霊」